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Jun.21 Camargue
「初夏のカマルグでは、アフリカからフラミンゴがやってきて、辺り一面をうめつくす。彼らが羽を動かすと、まるでピンクの海に波が立ったようになるんだ。」
そう聞いた私はいてもたってもいられず、その夏、フランスのカマルグへと向かった。
イギリスに留学中の友人に連絡をすると彼女も行くと言い、私たちはパリで落ち合い、列車でアヴィニョンへ。駅でレンタカーを借りると、当面の拠点であるアルルの街へと入った。
翌日。土地勘のない私たちは、ドライブをかねて、焦りと期待を胸に、カマルグを巡った。けれど、なかなかフラミンゴは見つからない。どこにいるんだろう。すると、助手席の友人から、弾んだ声があがった。「あ、いた!」車をとめ、茂みから静かに覗き込むと、数羽のフラミンゴが、静かに羽を休めている。初めて見る野生のフラミンゴ。それは、桃のような淡いピンク色をしていた。
友人にとっては、それで十分だったのかもしれない。
翌日から、わたしは一人、夜明け前に車を走らせカマルグの干潟へと向かうようになった。毎日、場所を変え、息を潜めて、フラミンゴを待つ。やっと見つけたと思っても、わたしの気配を感じると、彼らはふわりと離れていってしまう。
その日も、わたしは干潟のほとりで、一人日の出を待っていた。
夜の青が、少しずつ東の空から桃色に染まっていく。塩の匂い。静寂だった世界に、遠くで音がうまれる。
—きた。
見上げると、東の空からやってきたフラミンゴの群れが、わたしの頭上を越えていった。
帰国後のある日、馴染みのバーで飲んでいた時のこと。隣の席にいたイタリア人の男性と、フラミンゴの話になった。わたしが「フラミンゴが、あんな風に空を飛ぶなんて、見るまで知らなかった」と話すと、彼は、心から驚いた顔をした。イタリアにも野生のフラミンゴはいて、彼らにとって、それは当たり前の光景だったのだ。
彼が、いたずらっぽくわたしに尋ねた。
「フラミンゴは、なぜピンク色なのか、知ってる?」
知らない、と答えると、彼は、得意げに言った。
「それはエビを食べているからだよ。あと、ほんの少しのカンパリとね。」
イタリア人らしいその答えに笑った。
地球の気候変動などにより、今は昔のように辺り一面をうめつくすほどのフラミンゴは渡ってこないと聞いた。それでも朝の光の中で見ることのできたピンク色の世界をわたしは忘れない。